いわき市勿来関文学歴史館

「詩歌の古道」の突き当りには「いわき市勿来関文学歴史館」があります。
本来なら「勿来の関博物館」或いは「資料館」的なものがあっても良いのでしょうが、「勿来の関」自体発掘調査などがされていない為、展示すべき出土品や関連資料などがほとんどないので、あくまで歌枕としての「なこそ」をクローズアップした「いわき市勿来関文学歴史館」が建てられたのでしょう。

海を見下ろす歌フェンス「歴史館」の入口の反対側には海を一望できる展望所があり、柵代わりのアクリルフェンスには小野小町の歌が刻まれています。


『見るめかる あまのゆききの 湊ぢに なこその関も わがすへなく』

汚れたフェンス先ほどの句碑にもあった歌ですが、”海女のいる海”が見えるロケーションにこの歌が刻まれているという心憎い演出ですが・・・
汚れていてすべて台無しです。


まず、アクリル板が汚れていて風景が醜いし、美しくない。そして歌もよく読み取れない。(先ほど句碑を見たので理解できたが)
ということで効果半減。まあ、8月1日でも梅雨明けにしていない東北地方だから無理も無いのかもしれませんが、もう少しこまめに清掃してもらうと嬉しいかも知れませんよ。

いわき市勿来関文学歴史館いわき市勿来関文学歴史館入場券とにかく入場料320円を払って入館しました。


自動ドアを入ったエントランスの壁には小さな文字でこう記載されています。

『勿来関は「来るな」の関
人も恋も道も
そして国さえも分かつ関
歌枕の地勿来関へようこそ
不思議タウンなこそへようこそ』

エレベーター内の装飾そしてエレベータの中のドアにも「関より先へ来る勿かれ」と書かれていて、入口と出口が反対にあるエレベータです。


そして「関より先へ来る勿かれ」とかかれた扉が開、「うたまくらのち」という説明があります。

うたまくらのち
古い記録によれば、かつてこの地には、「道の奥」を隔てる菊多?が置かれていたといわれています。
一方、「勿来」は「な来そ」つまり「来るなかれ」という意味であり、人々の往来を拒絶するイメージから、最果てのみちのくへの憧れや恐れを象徴するものになり、やがて、人や季節、恋を隔てるものとして、都びとの歌に数多く詠まれるようになりました。
このように「勿来関」は、時代の変化や和歌の深みが増すにつれ、歌枕として広く知られるようになりました。』(現地ディスプレイより)

ここではっきりと「勿来の関」が”関所”としての歴史的な地ではなく、”歌枕”としての文学的な地であることが理解できました。
つまり「勿来の関」を”関所跡”と思っていくと痛い目に遭うっていうことです、ゆめゆめお忘れなき用。

「釣り文化の歴史」企画展展示室に入る前にエレベータの左手では企画展として「釣り文化の歴史」と題して”釣キチ三平の原画展示がされています。かつて”釣キチ三平”は全巻持っていて何度も読んだ、非常に秀作な漫画です。ですので興味深く見させてもらいましたが、何分20年以上前に愛読していたことと、何故ここで・・・?もあって今ひとつ感動的ではなかったのですが、それなりに楽しませてもらいました。


歌の記載されたオブジェ常設室に入るとそこには木々をイメージした(?)オブジェに歌が刻まれています。
ここで解説されているのは、全部で19編で、4つのテーマに分かれています。


『解説シート「なこそ歌」の世界
勿来関・・・「なこそ」は、文字通り「来るなかれ」、つまり「来るな」の意に通じます。和歌では、男女が遭うことを隔てるものとして、とらえられるのが一般的ですが、季節や風などをせき止めるもの、桜が散らないようにとどめ置くものとしても詠まれています。』

テーマを映し出す演出ということで「春の勿来」が3編、「恋の勿来」が9編、「志の勿来」が4編、そして「道の勿来」が3編です。
これらの歌をVTRやスライド、そしてオブジェなどで説明・表現しているのがこの展示室です。


オブジェ中央には鳥の巣のようなオブジェがありますが、中に「勿来関」・・・所謂、関所としての模型が中に置かれています。


ちょっと気に入ったものを揚げてみます。

「春の勿来」
をしめども とまりもあへず 行く春を 名こその山の 関もとめなん (紀貫之)
『いくら惜しんだって過ぎていく春だけれど、勿来関よ、春が行ってしまわないように止めて欲しい。』
余りにも綺麗過ぎて”座布団2枚とってしまいたい”くらいですね。まあ、上手いこと読むものです、ただただ感心!

「恋の勿来」
名にしおはば なこそといふと わぎもこに 我てふこさば ゆるせ関守 (藤原基俊)
『「来るな」という名を持つ勿来関の関守よ、愛しい人に会いに行くのをも逃してくれ。』
前出した小野小町の歌は若干寂しげですが、これは結構前向きの明るい歌ですね。
それがやはり小野小町と同じような若干のネガティブ感が出るとこうなります。

都人 恋しきまでに おとせぬは なこその関を さはるにやあらん (源兼昌)
『都にいるあなた、私が恋しいと思っているのに便りをくれないのは「来るな」という勿来関を気にしてなのでしょうか。』
更にネガティブになるとこうなります。

いとはるる 我身名こその 関の名は つれなき中や 初なるらん (藤原為氏)
『あなたに嫌われている私。勿来関の名の由来は、こんなつれない仲から来ているのだろうか。』
こういった意味で恋愛には作りやすい枕詞なんでしょうね。

「志の勿来」
東路の かたに名こその 関の名は 君を都に すめと也けり (慈円)
『あなたの帰る東国には「来るな」という勿来関がありますが、その名の通りこのまま都に住みなさいと言っているのですよ。
(鎌倉に帰る頼朝に読んだ和歌)』

都には 君に相坂 近ければ 名こその関は とほきとをしれ (源頼朝)
『あなたの住む都の近くには「逢う」という逢坂関があるから、近いうちに会えますよ。「来るな」などといって二人の間を隔てる勿来関は都から遠く、あなたと会うのに支障はないのですから。
(慈円の上記の和歌への返歌)』
結構アカデミックなことやっているんですね。レベル高い感じしますよね。

「道の勿来」
やはり源信明の歌が真骨頂ですが西行の歌にこうあります。

あづま路や 忍ぶの里に やすらひて 名こその関を こえぞわづらふ (西行)
『東路の信夫の里に滞在していると、勿来関を越えて行くか行くまいか悩むことだ。(誰にも言えない忍ぶ恋をして悩んでいることだ)
-信夫の里は西行所縁の地。』
”信夫”と”忍”を掛けているところなんざあ、たいしたもんだね・・・(って、誰に物言ってる!)

このように面白そうなものを上げてみましたが、前出したとおり実際には125首あるので、それぞれが味わい深いのでしょうね。

ナコソタイムス掲示ディスプレイこの展示室を出ると九十九折の通路を通りますが、その壁面に「ナコソタイムス」というパロディ新聞が掲出されています。
見出しだけでもならではの面白いものがありますので、一つ挙げてみます。


ナコソタイムス-ヘッドライン-
勅撰和歌集「千載和歌集」完成
-見出し-
和歌の道にも政治の風
-ショルダーコピー-
勅撰の「千載和歌集」からも平家色一掃。源氏棟梁・源義家の歌入選。
なかなか良く出来ているパロディ紙でした。


読売・・・の親父そしてそのまま先に進むとちょっと一服とばかりに”読売(現在でいう新聞紙)”の親父が出迎える「不思議タウンなこそ」に入ります。


井戸・・・のぞくなかれ穴・・・のぞくなかれ木賃宿内部「不思議タウンなこそ」とは一言で言ってしまえば江戸時代の町を凝縮したものを展示するといったありがちな展示なのですが、ここは若干ひねりが加わっています。
「のぞくなかれ」と書かれた井戸を覗くと中にはモニターが設置されていたり、同じような木賃宿にも覗き穴がり、そこにもモニターが仕掛けられています。
【左側:井戸…覗く無かれ。中:木賃宿の穴…覗く無かれ。右側:木賃宿内部】


札の辻ぼやくオッサン「二八そばや」や「札の辻」、また開けずのトイレや休憩ところ。更にぼやきのオッサンや話す地蔵などなど。
まあ、よくここまでのモノを考えたものだと感心しきりです。
【左側:札の辻、右側:ぼやくオッサン】


意味がなさそうで、実は意味は在るのだけれど、かといってそれ程大層な意味でもないという、”策士、策に溺れる”的な演出は結構好きですね、何となくクリエイティビティを感じますからね。

一回りしてきましたが、はっきり言ってそれ程題材的に展示できる素材も資料もないのに、ここまで膨らませてさも歴史館として何となく堪能できるところもそうないでしょうね。
そういった意味で展示の在り方とか、見せ方の工夫的な観点で見ると更に興味深いかもしれません。広告屋としてはディスプレイの方法や演出に目が行ってしまう興味深い歴史館でした。

吹風殿「歴史館」を出ると平安絵巻にでも出てくるような豪華な屋敷があります。


義家の「吹風を なこその関と・・・」の歌からとって「吹風殿」という寝殿造りの建物で、やはり義家の生きた平安時代をイメージしたものだそうです。
随分費用もかかっていそうな感じですが、実際は市民の方などに施設として貸し出しているそうです。管理の方がいたので聞くと、お茶や生け花、音楽などなどの集まりや発表会などに使用されているそうです。
一般的に言えば公民館とかレンタルスペースとかと同じ意味合いですが、何とも贅沢さが漂う感じです。イベントなんかにもよいのではないでしょうかね。

この公園一体は”関”同様まともに文学や歴史を学ぼうなどという半端(・・・!)な気持ちでは裏切られること間違い無しです。ここは「勿来の関」を含めて歌枕のイメージを具現化したテーマパークだと思うと非常に楽しめる施設と思います。
ちょっと気持ちに余裕を持って見て回れる人には、良いロケーションだと思いますので、一度は見ておいても損はないかもしれませんね。

参考:【いわき市勿来関文学歴史館】 http://www.iwakicity-park.or.jp/bungakurekishikan/

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