前編では神保町古書街の障りを散策してきましたが、これからが益々ディープな世界であるとともに、サブカルチャーの花開いていくイメージが感じられる後編です。
どんな文化に触れられるのでしょうかね。

第1部 神保町編《後編》

神保町交差点を超えて古本街を進みますが、ここで有名なトリビアです。
これまで見てきたようにこの神田の古本街は靖国通り沿いに連なっているのですが、九段下(西側)から見て右側に書店が圧倒的に多く左側にほとんど無いのは何故でしょうか。
これは靖国通りの右側にある書店の建物は北側を向くことになり、こうすることによって直射日光や西日から本を守ることができるからなのです。
初めの頃は露天商的な書店が多かったからではないのでしょうかね、勝手な想像ですが。。。

靖国通りの古本街-2

先に進むと個人的に何か実に懐かしい店舗が現れます。
「Disk union」です。
「Disk union」
書店ではありませんがレコード(現在はCDやDVD)を扱う専門店で、確かお茶の水にかつてはあったのですが…。
とにかく学生時代と言ってももう40年以上前のことですが、「Disk union」にはよく買いにきたもので、ここや秋葉原の石丸電気などに輸入盤が多くありましたからね。
当時は安くてカッコよい輸入盤がクールでしたね。

その先のブロックの手前にはどっしりとした重厚感漂う佇まいの「一誠堂書店」があります。
「一誠堂書店」 「一誠堂書店」
ここは神保町でも老舗中の老舗で、1903(明治36)年新潟県長岡で開業し、1906(明治39)年にここ神保町に店を構えて以来100年以上の歴史を持つ書店なのです。
それ故に柳田国男、志賀直哉、川端康成、井上靖、三島由紀夫、松本清張らも顧客だったのだそうです。
建物は昭和6年に建てられたもので、とにかく格調高い雰囲気が実にクールなのです。
ビルの奥まったところににあるのが「菅村書店」で、とにかく“のりもの”に拘った古書店なのです。
菅村書店 菅村書店
「クルマ・バイク・鉄道・飛行機・船舶・模型・ミリタリー」などど書かれており、多くは趣味の方が集まってくるようです。
このような括りも神保町らしい特徴です

赤いファサードが眼につく店舗には「本と街の案内所」と書かれています。
「本と街の案内所」
ここでは神保町を訪れる方のために、古書の検索などができるサービスを行っているところなのだそうです。
「本と街の案内所」
よく見ればこの建物も昭和初期の看板建築です。
看板建築
スタッフの方にお聞きしたところ、もとは京都の口紅などを扱うお店だったことからファサードがピンク色なのだそうです。
そしてこの“本と街の案内所”から東に向かった先にある「小宮山書店」まで11軒の看板建築店舗が連なった長屋だったそうです。
靖国通りの反対側から見たところですが、現在ではこの名残が多少感じられるだけになってしまっています。
11軒長屋の面影
因みに何気なく書かれていますが、隣のメガネ屋である「三鈴堂眼鏡店」は創業明治12年ですからざっと130年以上の歴史ある眼鏡店なのです。
三鈴堂眼鏡店
新しい発見とさりげなさがクールな看板建築店舗なのです。

それではその元長屋沿いを歩きます。
数軒先の「大久保書店」もまた看板建築の建物で、その名残をとどめています。
大久保書店
主に鉱物学などの地質学関連書などを扱う古書店なのですが、先代が地理学の小川琢治・京大教授と懇意だったことから創業に至ったのだそうですが、実はこの小川琢治教授とは、日本初のノーベル賞受賞者である湯川博士の父なのです。
そしてその湯川博士の長兄である小川芳樹・東大教授も足しげくこの書店に通った常連客だったのです。
そのようなことから1968(昭和43)には、長年地質学研究に貢献したということで日本地質学協会から感謝状が贈られたそうです。
地味ながら侮れないところが実にクールな書店なのです。
そしてこのブロックの角に「小宮山書店」があります。
小宮山書店小宮山書店 小宮山書店
現在では重厚な造りの店舗となっています。
こちらは幅広いジャンルを扱っているのですが、中でも三島由紀夫関係の本や草稿は、質・量共に神保町随一といわれるそうです。

隣のブロックには有名な「書泉グランデ」があり、三省堂書店、東京堂書店とならぶ神田の大型書店のひとつです。
書泉グランデ
書泉グランデの隣の書店が「一心堂」です。
一心堂 一心堂
1919(大正8)年以来90年以上この地にある老舗で、永井荷風の「断腸亭日乗」にもその名が出ているそうです。
面白いのはその経歴で、先代は12歳のときから先にあった“一誠堂書店”に勤務していて、一誠堂書店が長岡から東京に移転するときに一緒に上京し、その後独立したのです。
教科書から始まり、法律や経済学などを扱っていたのですが、京都の書店で修業した現店主が美術中心の品ぞろえに変え、現在、刀剣・甲冑関係書の品ぞろえは追随を許さないまでになったそうです。
クールな店主の生きざまを刻んでおきましょう。

数軒先にあるのが書店ではないのですが有名な「レオ マカラズヤ」です。
レオ マカラズヤ レオ マカラズヤ
今さら説明することもない鞄一筋の老舗ですね。

そしてその先にある書店が「大屋書房」です。
大屋書房 大屋書房
和本、古地図、浮世絵版画、古写真など、とにかく“江戸時代”の専門店なのです。
隣に並ぶイギリスのゲームと関連製品の制作・小売会社「ゲームズワークショップ」とは実にコントラストが実にクールなのです。
ゲームズワークショップ
江戸と大英帝国が共存する、まさに神保町の面白さといったところでしょう。

そして最後を締めくくるのがやはりここ「三省堂」でしょう。
三省堂書店 三省堂書店 三省堂書店
何といっても有名なのは国語辞典や英和辞典ですが、これらの辞典を出版しているのは「㈱三省堂」で、こちらの書店は正式には「㈱三省堂書店」なのです。
もとは「三省堂書店」の出版事業部が独立したものが「三省堂」だったのですが、1974年の倒産を機に創業者一族が経営から離れ現在は直接の資本関係はないのです。したがって「㈱三省堂書店」は現在でも創業者一族の経営なのです。
これにて靖国通り沿いの古書店巡りは終了ですが、やはりここは外せないもう一つの古書街をめぐります。

神田すずらん通り

三省堂書店の斜め前の交差点が「駿河台下交差点」となります。
この交差点は六差路という珍しい交差点ですが、交差点角にあるこの光景がこの周辺を特徴付ける光景なのです。
駿河台下交差点
つまり、このまま靖国通りを東に進むと「Victoria」の看板に象徴されるようにスポーツ用品店舗、特にスキー・スノボなどのウィンタースポーツが中心の町並みとなり、北方向へお茶の水方向に進むと「KUROSAWA」の看板に象徴される楽器店街となるのです。
スポーツ用品店街 楽器店街
どうしてこのようになったのかは知りませんが、とにかくここ駿河台下交差点は古本屋街とスポーツ用品店街と楽器店街が交わる交差点なのです。
都心の一等地の専門店街が交差するところはまさにクールな交差点なのです;;

そしてここからは南側の六差路の路地を進みます。
アーケードには「神田すずらん通り」と記載されています。
神田すずらん通り 神田すずらん通り
角には「書泉ブックマート」があり、かつては比較的専門的な書籍が多かったのですが、現在はマンガ・ラノベ館となってました。
書泉ブックマート
“ラノベ”とはライトノベルの略で、まさにサブカルチャーを象徴するかのようなクールな書店に変貌していたのです。

この「神田すずらん通り」は靖国通りと並行に走る商店街で、ちょうど神保町の交差点周辺まで続いています。 いきなりですが、書店ではなくこんなトーストとサンダーバードに目を奪われました。
パセラリゾーツ パセラリゾーツ
「パセラリゾーツ」というカラオケ店なのですが、その地下1階に「サンダーバードカフェ」がオープンしたのだそうです。
詳しくはウェブサイトを参照ですが、サンダーバードをモチーフとしたカフェ、入って見たいですがオッサン一人ではちょっと恥ずかしいかも。。。
サンダーバードカフェ
別の機会にクールな秘密基地に行って見ます。

サンダーバードカフェの先にある店舗が「文房堂」です。
文房堂 文房堂
いわゆる画材・文具を扱う店舗ですが、1887(明治20)年に創業した老舗なのです。
現在の建物は1994年に千代田区より「都市景観賞」を受け、2003年には「千代田区景観まちづくり重要物件」に指定されているのです。
看板建築と同様神保町には無くてはならない店舗といえるようです。

文房堂の斜め右には「三省堂書店」の裏口になるのでしょうか。
三省堂書店
そして三省堂書店の反対側の路地の先に妙な建物があるので行ってみます。
神保町花月
前まで行ってみるとこの建物はなんと「神保町花月」なのだそうです。
神保町花月 神保町花月神保町花月
当然、あの吉本興業の経営ですが、いつできたのでしょう全く知りませんでした。
基本的に芝居公演とお笑いライブが行われているようですが、夏休みはスペシャルとして「神保町特撮図鑑」が開催されるようです。
神保町特撮図鑑
ガメラと大魔神は大映のクールな二大特撮スターなのです。

すずらん通りに戻って先に進みます。
左手には「キントト文庫」とかかれた書店があります。
キントト文庫
趣味や風俗などに特化した古書を扱っているのですが、ネーミングだけでもつい入りたくなるような佇まいです。
さらにこの店舗の3階には「ROCK on king」という音楽雑誌やコンサートパンフなどの専門古書店があります。
ROCK on king
絶版の楽譜や入手が難しいコンサートパンフなど、その方面では知る人ぞ知る店舗だそうです。
この建物に3店舗の店が入っているのですから見事なものです。
3軒同居
右手には洒落た書店である「ボヘミアンズギルド」があり、漱石・鴎外の自筆物や、夢二・志功などの自筆物や版画などを扱っている、まさにアート感覚溢れる書店です。
ボヘミアンズギルド
合わせてお洒落なネーミングがクールな店舗なのです。

著名人といえばこの書店の反対側にある天ぷらのお店「はちまき」です。
はちまき
この建物も看板建築のようです。
はちまき
そしてこのお店、店舗の前にも掲出されているように、江戸川乱歩や井伏鱒二などの文豪が通った老舗大衆天ぷら屋なのだそうです。
はちまき
一度ゆっくり店内で天ぷらとともにその歴史を味わってみたいものです。

その1ブロック先にある大きな建物が「東京堂書店」で、中には購入した本をゆっくり読める“Paper Back Cafe”のあるオシャレな空間となっています。
東京堂書店
こうしたオシャレな書店と専門古書を扱うカオスな書店と、両極端の店舗が共存しているところが神保町の面白さですね。
そしてその対極にあるのが通りを隔てたところにある「ARAMATA]です。
ARATAMA ARATAMA
とにかくアイドル写真集やヌード写真集の品揃えは天下一品だそうで、平日は会社帰りの人、土日は地方から来る方で賑わっているそうです。
まさにサブカルチャーの雄、クールなスポットです。

数軒先にある何気ない文具店の「文具ミヤタ」ですが、1886(明治19)年に創業した老舗文具店なのです。
文具ミヤタ 文具ミヤタ
先の文房堂同様、本とは切っても切れない関係にある事からでしょうかね。
ここから1ブロック先の左側には「DiO カルチャービレッジ」があります。
DiO カルチャービレッジ
こちらもアイドル写真集が中心のサブカルチャー系で、もとは中野で営業していたそうですが、最近は神保町も若い人が増えてきたようで、店内も結構賑わっているそうです。

2軒先には面白いことに中国とロシアがかつてのように手を携えている光景です。
スヰートポーヅとレストラン ろしあ亭 スヰートポーヅとレストラン ろしあ亭
左の「スヰートポーヅ」は行列のできる餃子専門店で、ほとんど肉のみで作るネタが本場中国の味なのだそうです。
右側が「レストラン ろしあ亭」で、ロシア大使館に出張料理を依頼されたこともあるロシア正統派のレストランなのだそうです。
更に道路の反対側の斜め先には「揚子江菜館」があります。
揚子江菜館 揚子江菜館
1907(明治40)年創業の上海料理の老舗なのです。以前「♪冷やし中華はじめました~」というパフォーマンスが流行りましたが、文字通りこのお店が日本で初めて冷やし中華を作った店舗なのです。
更に「揚子江菜館」の裏手にあるのが「さぼうる」です。
さぼうる
ここも今さら説明する必要もない店舗で、スペイン語で“味”を意味する「さぼうる」は著名人も多く訪れたレトロアフェです。
神田に勤務していたころは随分訪れましたが、ここ10年ほどご無沙汰だったので随分懐かしい佇まいです。 また来たくなる魅力をいつまでも失わないカフェなのです。
すずらん通りは書店以外にもこのようなグルメな店舗があるので、多くの人が楽しめる商店街です。
クールなグルメも神保町の特徴でしょう。

すずらん通りの最後は揚子江菜館の隣の“天下一”第2ビルにある店舗です。
「AV・FACTORY」と「荒魂書店」 「AV・FACTORY」と「荒魂書店」
1階は「AV・FACTORY」と文字通りアダルト専門の店舗で、2階は「荒魂書店」となっています。
この「荒魂書店」は少し前に見た“ARATAMA”の本店でアイドル写真集などのお店と紹介しました。しかしながら1972(昭和47)年の創業当時は文芸書専門店だったそうで、10年くらい前からアイドル路線に転向した神保町界隈では草分けの存在だったそうです。
それでも創業時からの文芸書も30%程度あり、そのうちの99%が初版本で安部公房や三島由紀夫、開高健などの初版本が手に入れられるそうですから、入るお客もまた実にユニークな顔合わせとなるのかもしれませんね。
文芸書を買いに来た紳士がAVのビルに入っていくというのも実にクールな光景でしょう。

こうして見てきた神保町古書街ですが、一般の商店街と違い専門性の高いことから、シャッター通りとなるような危惧を見出すことはできません。
神田すずらん通り 神田すずらん通り
反対にますます盛んになってくる商店街といったところで、まだまだ面白い店は数多くあるのですが、今回はサブカルチャーを中心としたクールなお店を探訪してみました。
最後に本の街神保町の象徴的な建物を紹介して神保町を離れます。

神田すずらん通り入口の前の白山通り沿いの向こう側に林立する3つの建物が神保町を表す象徴なのです。
本郷通り沿いのビル
左側にある建物は有名な「救世軍」があるビルですが、このビルの数階と裏手にビルにあるのが「有斐閣」です。
「有斐閣」 「有斐閣」
「有斐閣」とは法律や経済関係を専攻された方ならピンとくるかもしれませんが、1877(明治10)年に創業した老舗出版社で、法律、経済、心理学、社会学などなど大学の一般教科や専門教科で購入した経験がある方も多いかも知れませんね。
「有斐閣」の左隣のビルが「集英社」です。
「集英社」 「集英社」
“週刊少年ジャンプ”“non-no”と言えばほとんどの方がお分かりになる1926(大正15)年創業の大手出版社なです。
その更に左隣には「小学館」があります。
「小学館」 「小学館」
こちらも“週刊少年サンデー”“女性セブン”“学年別学習”と言えばお分かりでしょう。
こちらは1922(大正11)年創業なのですが、1926年に小学館の娯楽図書部門を独立させたのが、何と隣の「集英社」なのです。
現在ではコンテンツビジネスで“小学館集英社プロダクション”を立ち上げるなど協力体制を組織し“一ツ橋グループ”と呼ばれているのです。
両社並んでいるのが実にヒストリックっでクールですよね。
そして最後は「集英社」の裏手にある「岩波書店」です。
「岩波書店」 「岩波書店」
「岩波書店」は更に古く、1913(大正2)年に創業された出版社で、初めは神保町の古書店として出発し、1914(大正3)年に夏目漱石の“こゝろ”を刊行して出版業に進出したのです。
このように本の街・神保町はjapan“Cool”を育てた街と言えるのかも知れません。
次回はjapan“Cool”ではヒストリックでワールドワイドなお茶の水を散策します。

2013.07.17記
(第2部 お茶の水編につづく)

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コメント

  1. 神保町

    またまた、大作です~。
    以前、数年間ですが水道橋と神保町の間の辺りに勤めていたことがあったので、
    懐かしい風景が見られました。

    看板建築という言葉は初めてかも知れません。庇も無いのですね。
    レトロですね~。

    ( 17:13 )

  2. 薄荷脳70 | -

    山ぼうしさん、ありがとうございます。

    今回は多くのコメントをいただきありがとうございます。
    それだけ神保町周辺と言うのは思いで深い町と感じる方が多いのですね。
    やはり本に触れる時代か少なからずあるでしょうから、そんなことで思いで深いのでしょうね。
    建築として見所があるのは、私もはじめて知りました。
    昭和の香りが何とか残っている貴重な場所でもあるようです^^

    ( 05:01 )

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